杉ウイメンズクリニック

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不育症の標準治療について。
2017/07/16(日)

不育症は新しい分野なので、標準治療がありませんでした。そこで、平成20年に厚生労働省不育症研究班が立ち上がり、当院もそこに参加して不育症診療の標準化に取り組みました。その結果、一次スクリーニング検査、選択的検査を提示し、今ではどこの不育症外来でもこの検査項目を標準に検査、診断を行っています。治療方針も、班員各施設の患者データを集め、データベースを作り、膨大な患者数のもと、各リスクファクター毎に治療成績を出しました。当院を含め、不育症研究班の班員はそれに基づいて適切な診療を心がけています。

現在は、厚労省研究班は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)研究班と名前が変わりましたが、データベースに皆さんの治療成績を追加し続けており、その数、5000人を超えました。現在の班員は、富山大、東大、日本医科大、岡山大、神戸大、兵庫医大、そして当院です。当院やこれらの大学の不育症外来を受診すれば、全施設の治療成績を共有していますので、それに基づいた適切な標準診療が受けられます。一つの施設や、一人の医師の個人的な経験に基づく医療は、エビデンスレベルが低いことは既に広く知られています。

最近、ヘパリンの過剰使用、エビデンスの乏しい薬剤の使用など、標準治療からかけ離れた不育症診療が横行しているので、危惧しています。標準治療は、決して遅れた治療ではありません。別に、必要最小限の治療に徹しろと言っているわけではありません。例えば、不育症データベースによるとアスピリン療法で概ね大丈夫だけど、ヘパリンを併用したほうが僅かに成績が良いのであれば、本人の希望があれば、やれば良いと思います。私は、チキンレースは嫌いです。でも、そういう人に対してヘパリンをやらなければ心拍が止まるなどと最初から脅すのは、適切な医療ではありません。

現在、AMEDの研究は、不育症データベースを蓄積する以外に、新しい不育症の原因の解明、検査、治療の開発に焦点を置いています。母体は文部科学省ではなく、厚労省なので、研究が目的なのではなく、不育症診療への実用化が求められているのです。一般の不育症外来は、エビデンスに基づく診療をする義務がありますが、我々AMEDの研究班は、新しいエビデンスを作る責任があります。当院も、抗第XII因子抗体や、抗プロテインS抗体など、他ではできない検査を行っていますが、当院研究所で勝手にやっているのではなく、AMEDの参加施設との共同研究でやっています。当院で抗体陽性者の患者血清から抗体を精製し、それを富山大に送って実際の胎盤に与える影響を培養系で見てもらう予定です。各研究室の得意分野を生かす訳です。

もちろん、その研究のためには、AMED研究全体で富山大の倫理委員会の承認を得ており、さらに当院の倫理委員会の承認も得ています。そして、研究に賛同して頂いた皆さんからは、インフォームドコンセントの書類に署名して頂いています。当院は、標準治療から外れた不育症診療を独自に行っているクリニックとは、立場が違うのです。それにしても大学でも無いのに、当院をAMEDの研究施設として認可してくれた厚労省に感謝です。その代わり、研究成果をAMEDに報告し、学会で発表し、英語の論文を書くという義務を負います。標準治療をしない一般クリニックは、倫理委員会の歯止めもなく、治療成績を報告する義務もなく、密室で行っているので、外部からのフィードバックがなく、治療が適切なのか評価もせず、いつまでも不適切な診療を続けているケースがしばしばあります。標準治療を無視するクリニックの診療は、リスクを伴いますので、ご注意ください。

また、当院は、各自治体の不育症助成制度の診断書を書く資格がありますが、もし当院がエビデンスのない診療をし、助成金の診断書を書けば、皆さんの税金が不適切な診療に注ぎ込まれる事になります。そんな事をしたら、助成金の診断書を書く資格を剥奪されるでしょう。そう言えば、標準治療をしないクリニックの診療費に助成金はおりるのでしょうか。

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