杉ウイメンズクリニック

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Th1/Th2検査、タクロリムスについて。
2020/01/19(日) NEW

Th1/Th2検査、タクロリムスについて、当院の見解を書きます。

 

 最近、Th1/Th2検査を行う施設が増えてきました。末梢血のTh1/Th2検査は、子宮の局所免疫の状況を直接反映しないので、検査としては参考程度にしかなりません。この検査のみで同種免疫異常と診断し、タクロリムスで治療するのは、あまりにも短絡的であると考えます。それ以外にも、多くの疑問点がありますので、その一部を紹介します。

 

 まず、Th1/Th2の正常値が10.3以下に設定されていますが、この正常値は、mean+1SD(平均値+1標準偏差値)で計算されており、正常女性の約16%が引っかかる設定で、甘すぎます。この正常値で診断すると、普通に出産している正常女性の6人に1人は、タクロリムスを飲まないといけなくなります。また、この正常値で診断すると、着床障害の約半分もの人がTh1/Th2高値となり、タクロリムスを飲む事になると報告されています。この中には当然、飲まなくても良い人が多く混ざっているはずなので、過剰診断、過剰治療であり、もし着床出来たとしてもそれが薬の効果かは不明です。逆に、前医にて、Th1/Th2高値のためタクロリムスを飲みながら何度も胚移植を繰り返し、着床しないため、当院を受診される方が最近増えていますが、当院で検査すると他の原因が見つかる事が多く、過剰診断の弊害が発生しています。見当違いの診断、治療をしている間に、正しい診断、治療が滞っているのです。現に、Th1が高値症例にタクロリムスを投与した時の流産率は35.7%と報告されていますが、この流産率は高すぎます。Th1が高いという事は、恐らく制御性T細胞 (Treg)があまり働いていない状況です。そうすると、免疫系が全体的に燃え盛っている状態なので、同種免疫異常だけでなく、自己抗体の陽性率も高くなるはずです。だから、Th1/Th2高値でタクロリムス無効だった人が当院で検査をすると、色々な自己抗体が陽性になり、他のリスク因子が見つかる事が多いのは理論的に納得が行きます。適切な治療をすれば、流産率は20%ぐらいになるべきです。

 

 ところで、Th1/Th2が高値の場合、何故、新薬のタクロリムスを使用するのかに関しても、納得の行く説明がありません。着床障害患者にタクロリムスを投与した場合、無治療よりも妊娠率が高かったという報告がありますが、先ずこの報告は、あまりにも症例数が少なすぎます。また、着床障害は、メンタルの影響が大きく、偽薬を投与しても、無治療よりは妊娠率が上がる事が報告されています(Fertil Steril 2003;80:376-383)。プラシーボ効果と言います。従って、タクロリムスの有用性を証明するためには、タクロリムスと無治療の比較ではなく、タクロリムスと偽薬との比較が必須です。要するに、タクロリムスと偽薬を用意し、医者も患者も、その薬が本物か偽物か、分からないようにして治療成績を検討するわけです。不育症分野では、今まで、幾つもの新しい治療が提唱されてきましたが、多くの治療は、最初のパイロットスタディで有用性が示唆されても、この偽薬との比較研究で有用性が確認されず、ポシャってきました。タクロリムスも、現時点では、パイロットスタディで有用性が示唆された段階にすぎず、臨床に取り入れるのは時期尚早です。偽薬を使ったきちんとした研究で有用性を証明する必要があります。

 

 タクロリムスの添付文書を読むと、タクロリムスは基本的に、ステロイドなどの従来の治療では十分でなかった場合に使う薬であり、第1選択薬ではないと書かれています。さらに、タクロリムスの妊娠中の投与は、禁忌ではありませんが、動物実験では催奇形性、胎児毒性が報告されており、ヒトで胎盤を通過する事が報告されています。また、早産および児への影響(低出生体重、先天奇形、高カリウム血症、腎機能障害)の報告があります。まだ歴史も浅く、決して安全な薬ではありませんので、念のために飲んでおこうかと言うノリで試す薬ではありません。そう言えば、タクロリムスは免疫抑制剤なので、感染症が重症化する副作用があります。今の季節、タクロリムスを飲みながらインフルエンザにかかると、危ないかもしれません。

 

 結論として、もしもTh1/Th2検査が有用だったとしても、Th1高値症例に対するタクロリムスの効果は決して良好ではなく、むしろ、当院研究所で行っている詳細な自己抗体検査を行い、別のリスク因子を見つけ、しかるべき治療をした方が、良いのではないかというのが印象です。当院では、Th1高値の人に限らず、全員に自己抗体スクリーニングを行っているので、わざわざTh1/Th2を検査する意義は感じていません。

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