杉ウイメンズクリニック

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 妊娠中期に破水したり、陣痛が来て死産するケースについて。
2022/06/12(日)
妊娠中期に原因不明の子宮内胎児死亡が起きれば、不育症を疑い、検査する事は常識ですが、胎児が元気なのに、急に破水したり、陣痛が来たりして、死産してしまうケースは、胎児が元気だったので、不育症と認識されず、運が悪かったですまされる事が多いです。或いは、頚管無力症と言われ、次回妊娠は、あらかじめ子宮口を縛る手術をすると言われます。でも、頚管無力症と言うのは、陣痛も破水もないのに、自覚症状が無く子宮口が開いて死産してしまう場合ですので、このケースで子宮口を縛っても、意味はありません。
胎盤の病理検査を出すと、絨毛羊膜炎が見られる事が多く、たまたま感染を起こしたせいで破水や陣痛が来たと言われます。しかしながら、そういう人が当院で不育症検査を受けると、血液凝固系の異常が見つかる事が非常に多いです。
私は既に、抗リン脂質抗体があると胎盤に血栓と出血が起きる事を報告しました (Am J Reprod Immunol;66:373-384,2011)。胎盤に血が溜まると、バイキンにとっては温かくて栄養満点で、絶好の棲家になります。もし、ここに感染を起こすと、絨毛羊膜炎になり、羊膜に炎症があれば羊膜に穴が開きます。これが破水です。また、破水しなくても、炎症が起きると、陣痛が来ます。こうして、胎児が元気でも死産してしまうのです。
従って、死産の間接的な原因は、抗リン脂質抗体などの血液凝固系の異常という事になりますので、抗凝固療法をお勧めしています。残念ながら、抗凝固療法を施行しても、どうしても多少の出血は起きます。その場合、出血の原因は胎盤血栓なので、抗凝固療法は続行します。出血にビビって抗凝固療法を中止し、止血剤を投与すると、血栓を助長するため、逆効果です。
もし出血が起きても、感染を起こさなければ、死産にはなりませんが、何故か、妊娠中期の破水を繰り返す人がたまにいて、そういう人に慢性子宮内膜炎の検査をすると、陽性に出る事があります。その場合、子宮内に既に菌が潜んでいるので、胎盤に出血が起きると容易に炎症を起こす様です。その場合、あらかじめ抗生剤で叩き、菌が消えてから妊娠すれば、抗凝固療法で無事分娩に至る様です。但し、この場合の抗生剤は、かなり強い抗生剤を使うため、耐性菌を誘導するなど副作用も多く、気軽に投与するべきではありません。先ずは抗凝固療法が基本と思います。
以上の考えは、何万人もの不育症患者を診て来た経験で得られたものです。胎児が元気なのに妊娠中期の死産をした患者に抗凝固療法を行えば、死産が防げると言う考えは、一般産科医の常識を超えている様で、否定される事もありますが、私は成功体験を持っています。そもそも、血液凝固系に異常があった患者に抗凝固療法を行う事に問題はありません。もちろん、異常の無い人に抗凝固療法を行うのは、私も反対です。
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