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当院の着床障害の概念と見解【過去コラムより】

ホームページリニューアルに伴い、過去に掲載した当院の着床障害への概念と見解に関するコラムをまとめました。

  【目次】

  1. 当院の着床障害の概念(2022/9/25)
  2. 着床障害、反復化学流産について。当院の見解。(2012/5/13)

着床障害とか着床不全と言う言葉は、良く使われますが、概念はまだ定まっていません。
私は、“不全”と言う言葉が意味不明なので、着床障害と言っています。
心不全は、英語でheart failureです。failureを日本語に訳すと不全と言うので、英語でimplantation failureを直訳すると、着床不全となるのですが、“不全”ってよく分からない日本語なので、私は着床障害の方がしっくり来ます。

妊娠反応が陽性で、超音波で胎嚢が確認できず生理になる場合、化学流産と言われています。
本当は、生化学的妊娠と言うのが正確です。
最近では、生化学的流産と言うことが提唱されています。

日本では、化学流産は流産にカウントしません。
何故ならば、化学流産の多くは受精卵の異常であり、不育症では無いからです。
現に、日本のデータでは、PGT-Aの正常卵を移植すると化学流産はかなり減る事が分かっています。

一方、欧州生殖医学会のガイドラインでは化学流産も流産にカウントする事になっています。
私の印象では、欧米は日本ほど緻密にhCGを調べないので、欧米の化学流産は、日本の化学流産と違って流産に近いのではないかと思います。

日本人は、妊娠反応をフライングテストする人が多い国民性で、不妊クリニックも直ぐにhCGを測定するので、hCG一桁の微妙な化学流産が多くあります。
それは殆ど卵の異常なので、現時点では日本で化学流産を流産にカウントするのは不適切と思います。
決して、化学流産を流産にカウントする欧州の方が日本より進んでいる訳ではありません。

しかし、化学流産を反復する場合は、卵の異常だけとは言い切れません。
「不育症管理に関する提言2025」でも、反復生化学的妊娠(化学流産)に対しては、不育症に準じた検査を行う事を提案しています。


体外受精で、何度も良好胚を移植しても着床しない場合、反復着床不全と言います。
何回移植したとか、何個移植したかなど、まだ厳密な定義はありません。
また、着床の定義もあやふやです。
hCGが出たら着床したと定義する論文もありますが、一桁でも良いのか、二桁以上なのか、論文によりまちまちです。
論文によっては、胎嚢が見えたら着床に成功と定義していたり、心拍が見えたら着床に成功としていたり、色々です。
クリニックによっても、移植の1週間後に血中hCGを測定するところもあれば、尿検査の妊娠反応しかしないところもあり、着床したかしないかの判断が、全く異なります。
従って、反復着床不全には、反復生化学的妊娠もかなり含まれるはずですが、その境界は不鮮明です。

私の個人的な考えでは、反復生化学的妊娠と反復着床不全を、まとめて着床障害と呼んでいます。
両者は、分ける事が出来ないからです。
当院は、着床障害の検査として不育症に準じた検査を行いますが、不育症と同じリスク因子が見つかった場合、不育症とは病態が異なるので、不育症と同じ治療は行っていません。
不育症の治療は、胎盤血流を良くする事が目的の事が多いですが、着床障害の治療は、良い子宮内膜を育てる事が目的の事が多いので、治療の時期や薬剤が異なります。
着床障害の人に不育症の治療を真似て、移植の日から、アスピリンやヘパリンなどで介入しても効果が出ないのは当然です。
移植の日は、既に質の悪い内膜が出来上がってしまっているからです。
私の考えでは、着床障害は、当院の精密検査、慢性子宮内膜炎検査(特にCD138検査)を行い、対策した上で正常な卵を移植すれば何とかなると思います。

着床障害についての問い合わせが多いので、ここに当院の考えを述べます。
化学流産(正式には生化学的妊娠、あるいは生化学的流産と言います)を病的なものと考える事は一般的には不適切です。
しかしながら、繰り返した場合はどうなのでしょうか。
世界中の専門家が目下研究中ですが、残念ながらまだ答えは出ていません。
したがって、当院を受診すれば着床障害の診断、治療ができ、妊娠成功しますよと自信を持って言う事は残念ながらありません。
研究中の検査、治療はありますが、まだ試行錯誤中です。
世界中でまだ誰もなし得ていない診療が、当院では可能ですと言う施設がもしあったら、本当か?と、とりあえずツッコンでおいた方が無難です。

当院は研究所を併設しているので、新しい検査・治療を試みており、基礎研究の実験結果・診療における治療経過共に良い感触を得ています。
現在は、当院の着床障害の治療成績としてホームページの「着床障害とは」にてデータを発信しています。

以前、日本受精着床学会にて着床障害についてのシンポジウム講演を依頼されたときの抄録に当院の着床障害に関する考えが詳しく書かれているので、ここに紹介します。
今回の研究で1つ分かった事は、着床障害は不妊領域と言うよりは、むしろ我々の専門である不育症領域の問題かも知れないと言う事です。不妊と不育症の専門医が協力して解決する必要がありそうです。

―以下、2012年日本受精着床学会シンポジウム抄録より抜粋―

「着床障害を不育症として扱うべきか」

不妊クリニックから不育症専門外来へ紹介されて来る不妊患者は、良好胚を何度移植しても全く妊娠しないか、もしくは生化学的妊娠で終わってしまう患者である。その様な不妊患者 (n=158)に対して不育症検査を施行したところ、抗リン脂質抗体 (aPL)、第Ⅻ因子欠乏、プロテインS欠乏など不育症患者群に非常に類似したリスクファクターの陽性率が得られた。

American Society for Reproductive Medicine (ASRM) Practice Committeeは、aPLはIVF成功には影響しないという見解であるが、Am Society for Reproductive Immunology (ASRI)はその様な結論を出すのは早急であるという見解である。我々は、不妊症患者においてaPL陽性者が少なからずいる事、陽性者の卵胞液にaPLが存在する事、卵胞液中のaPLはIgGのみで、IgMは無かった事、aPL-IgGは受精率を低下させた事などを既に報告した (Am J Reprod Immunol 2006; 55: 341-348) 。しかしながら、良好胚を移植しても生化学的妊娠を繰り返す着床障害症例では、不育症患者同様、aPL-IgMの陽性頻度が高く、また、第Ⅻ因子欠乏やプロテインS欠乏などの凝固異常も不育症と類似した頻度で確認され、受精障害と着床障害における機序は異なる様である。生化学的妊娠は、流産とは異なるとは言え、繰り返した場合は、不育症として扱うべきなのかも知れない。

抗リン脂質抗体症候群に対する低用量アスピリン療法やヘパリン療法が流産防止に有効である事は既にコンセンサスが得られているが、aPL陽性の着床障害患者にも有効であると言うエビデンスは無い。着床の前後は、まだ血流は関係無いので、胚移植時からアスピリンやヘパリンを開始しても効果があるとは考えにくいし、現にrandomized, double-blind, placebo-controlled trial (Fertil Steril 2003; 80: 376-83)でも無効であると報告されている。ヘパリンの在宅自己注射を毎回胚移植の日から開始する事は、患者の肉体的、経済的苦痛も大きく、長期にわたった場合の骨粗鬆症のリスクもあるので、行うべきでは無い。この論文には、その研究趣旨からは外れるが、1つ興味深いデータがある。胚移植時からアスピリン、ヘパリンを開始した治療群と、生食とsucroseを開始したplacebo群では、妊娠率も着床率も差が無かったが、どちらも一般のIVF患者の妊娠率、着床率よりも有意に高かった。不育症患者において、tender loving careが妊娠維持に有効であると言う報告があるが、着床障害においても同様の事が言えるのかも知れない。

着床障害は、不妊症と不育症の挟間にあり、どちらの領域なのか不明であったが、今回の我々のデータより、不育症の領域に近い事が示唆された。しかしながら、従来の不育症の治療をそのまま不妊症に行なう事は不適切であり、新しい治療を開発する必要がある。当院でも現在研究中の理論、治療があるが、残念ながらまだ発表する状況には無い。不妊専門医の協力が不可欠である。

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