当院における着床障害の治療成績【過去コラムより】
ホームページリニューアルに伴い、過去に掲載した当院における着床障害の治療成績に関するコラムをまとめました。
【目次】
- 当院における着床障害の治療成績の解説
- 着床障害患者における血液検査陽性項目の検討
- 抗PS/PT抗体とEGF
当院における着床障害の治療成績の解説
当院は、不妊治療は行なっていないので、今まで当院受診後の体外受精の治療成績を正確に把握できませんでしたが、今回、不妊クリニックの協力で正確な追跡調査が出来ましたので、ここに報告します。
胚移植をして3回以上 (3-12回、平均3.9回)着床しなかった着床障害患者110人に対し、当院の精密検査を行い、治療しました。
平均年齢は38.9才でした。
胎嚢確認をもって妊娠と定義しました。
43.6%の人が、治療後1回目の移植で妊娠しました。平均年齢 38.3才。
20.0%の人が、治療後2回目の移植で妊娠しました。平均年齢 37.7才。
合わせると、63.6%の人が、2回目の移植までに妊娠した事になります。
38-40才の胚移植あたりの妊娠率は44.2%と報告されています(Fertil Steril 2025;123:428-38)。
この人達は着床障害では無いので、これ以上の成績は出ないはずであり、着床障害の人でも、当院の着床障害の検査・治療を行えば、着床障害でない人と同等の妊娠率が得られた事になります。
着床障害患者110人のうち胚移植を6回以上して着床しなかった人は14人いて、当院の検査・治療後に、7人(50%)は1回目、4人(28.6%)は2回目の移植で妊娠出来ました。
胚移植12回して着床しなかった39歳の方は、当院の凝固系検査で異常を認め、アスピリン投与のみで1回目の移植で無事妊娠しました。

上記の患者さんは、全て不妊クリニックから当院に紹介された方で、当院で検査、治療方針を出した後、不妊クリニックで胚移植をしました。
慢性子宮内膜炎、当院の精密検査、正常な受精卵の3項目を押さえれば、アスピリンを効果的に使用することで良好な結果が得られます。
着床障害患者における血液検査陽性項目の検討
当院の着床障害患者110人の治療成績の報告をしましたが、今回、検査で陽性になった項目を検討しました。
一番多かったのは、抗プロテインS抗体で20.9%、二番目が第Ⅻ因子活性低下で18.2%、三番目が抗EGF抗体で16.4%、四番目と五番目がループスアンチコアグラントと抗PS/PT抗体で15.5%、六番目が抗カルジオリピン抗体で14.5%でした。

EGF関連自己抗体(抗PS/PT抗体に加え、当院でしか測定できない抗EGF抗体、抗第Ⅻ因子抗体、抗プロテインS抗体)が陽性であった人は、47.2%でした。
当院独自の検査が、非常に重要である事が分かります。
EGF(上皮成長因子)は、子宮内膜や胎盤の血管新生を促し、着床や妊娠維持に重要な役割を果たしている事が分かっています。
抗PS/PT抗体と、当院が発見し測定法を開発した抗第Ⅻ因子抗体、抗プロテインS抗体、抗EGF抗体は、全てEGF系を認識し、EGF系を破綻させることで着床障害や不育症を引き起こしている可能性があります。
(※抗PS/PT抗体とEGFの関係は次のセクション「3.抗PS/PT抗体とEGF」をご参照ください)
これらの人達に治療を行ったところ、良好な成績が得られた事は、前のセクション「1.当院における着床障害の治療成績の解説」で報告した通りです。
大切なのは、検査に基づく診断です。診断しないで不要な治療を試しても良い結果は得られません。
また、当院の検査で異常なしの診断の場合は、慢性子宮内膜炎など、他の原因が見つかる事が多いです。
異常があっても無くても、正しい診断は成功への近道です。
抗PS/PT抗体とEGF
抗PS/PT抗体は、抗リン脂質抗体の一つで、最近、注目されています。不育症のリスク因子としてエビデンスが蓄積されていますが、その病原性は未だ不明です。
2024年に、我々は抗PS/PT抗体もEGF系を認識する事を解明し、国際医学雑誌に発表しました。
その理論が正しければ、不育症だけでなく、着床障害の原因にもなり得ます。
▼論文URL
www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165037824002080
詳細は、日本生殖医学会、国際生殖医学会、日本不育症学会シンポジウムなどで発表しました。