着床障害に対する過剰治療の弊害について思う事【過去コラムより】
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着床障害に対する過剰治療の弊害について思う事(2024/09/22)
不妊治療で体外受精を行っている方で、何度胚移植をしても妊娠せず、当院を受診される方が多くいます。
そこには、二つのパターンがあります。
一つは、対策無しに移植を繰り返すパターンです。
このパターンの担当医は、「着床しないのは全て卵のせいである。何度も移植すれば、いずれ上手く行く」と言う考えの様です。
受精卵の検査が出来なかった以前は、その説明で済んだかも知れませんが、最近はPGT-Aが普及し、受精卵の検査が出来るようになりました。
着床しないのは全て卵のせいと考えているため、PGT-Aを行い、正常胚を移植しますが、それでも着床しません。
にもかかわらず、移植を繰り返します。
着床しないのは全て卵のせいと説明し、PGT-Aの正常胚を移植し、それでも上手くいかない場合、何と説明するのでしょうか。
当院で検査すると、色々原因が見つかり、治療で介入すると上手く行きますが、当院の治療介入は不妊クリニックにフィードバックされない事も多く、それも改善されない理由になっているかも知れません。
もう一つのパターンは、過剰治療です。
明確な診断なしに、治療が先行するパターンです。
1回胚移植して着床しないと、次は薬を増やし、それでもダメなら更に薬を増やし、健康を害して当院を受診されます。
アスピリン、ヘパリン、プレドニンなどのステロイド、タクロリムス、プラケニルなどなど、強力な薬が投与されている事が多いです。
更に、高額な大量免疫グロブリン療法などを提示されて当院を受診されます。
基本的に健康な人に、膠原病などの基礎疾患のある人や臓器移植後に使う強力な薬を使えば、身体の負担になる様で、体調を崩す人も多いです。
当院で検査し、診断し、必要最小限の治療にすると、すんなり上手く行く様です。
今までの治療は何だったのでしょうかと、いつも言われます。
検査・診断なしの治療は、医療とは言いません。それなら、素人でも出来ます。
検査し、診断し、適切な治療を行えば、1回上手く行かなかったとしても狼狽えず、再度同じ治療を提示できます。
適切な治療をしても、成功率は100%にはなり得ないので、診断に自信があれば、治療方針が揺らぐ事はありません。
診断、治療に自信が無いと、直ぐに別の治療を提案する事になります。
そんなに簡単に治療方針を変えるのなら、最初の診断、治療は何だったのでしょうかと思います。
治療のステップアップは容易ですが、ステップダウンは患者さん自身も勇気が要ります。
しかし、さらなる不要なステップアップはキリが無いし、健康にも悪いし、何と言っても結果につながりません。
着床障害は、些細な原因で起こります。
そこを見つけて、少しだけ治療で介入すれば上手く行きます。
エビデンスの無い過剰な治療は百害あって一利なしです。