EGF系の破綻による不育症・着床障害について【過去コラムより】
ホームページリニューアルに伴い、過去に掲載したEGF系の破綻による不育症・着床障害に関連するコラムをまとめました。
自己抗体を介したEGF系の破綻が着床障害、不育症を引き起こすと言う新しい仮説について。
当院研究所では、不育症・着床障害患者に第Ⅻ因子欠乏、プロテインS欠乏が多く見られる事、その原因として、抗第Ⅻ因子抗体、抗プロテインS抗体が存在する事を発見し、国際学会に論文を発表してきました。
これらの抗体は、血液凝固を制御している第Ⅻ因子やプロテインSを認識し、その働きを阻害することで血を固まりやすくすると考えられています。
胎盤に血栓ができると、胎児に酸素と栄養が充分に渡らず流産を引き起こします。
さらに研究を進め、抗プロテインS抗体がプロテインSのEGF様領域(EGFとよく似た構造をしている部位)を認識する事が分かり、2018年に国際血栓止血学会 (ISTH) のオフィシャルジャーナル (Res Pract Thromb Haemost) に論文を発表しました。
そして2019年に、抗第Ⅻ因子抗体も同様に第Ⅻ因子のEGF様領域を認識する事がわかり、血栓止血学の一流ジャーナル (TH Open)に論文を発表しました。
2024年には、抗リン脂質抗体のひとつである抗PS/PT抗体もEGFを認識する事が分かり、論文を発表しました。
つまり、血液凝固とは違う病原性が浮かび上がってきた訳です。
上記の論文3つは、当コラムの下部にリンクを貼ってありますので、是非読んでみてください。
EGF (epidermal growth factor) とは、上皮成長因子と言って、血管新生を促す役割があります。
子宮内膜も胎盤も血管の塊であり、子宮内の第Ⅻ因子やプロテインSは、EGF様領域を介して子宮内膜や胎盤を育てるという生殖には重要な役割があります。
このEGFを認識する抗体が、抗プロテインS抗体や抗第Ⅻ因子抗体であり、子宮内膜の血管新生・増殖を阻害し、着床しづらい内膜にしたり、胎盤血管新生や胎盤形成を阻害し、流産や胎盤血管障害を引き起こすと考えられます。
つまり、血液凝固とは全く異なる、新しい着床障害、不育症の原因が、期せずして解明されつつあります。これは、当院研究所発の世界で初めての仮説です。
当院では当院独自の検査として、抗第Ⅻ因子抗体や抗プロテインS抗体のウエスタンブロット法による測定や、EGFそのものに対する自己抗体(抗EGF抗体)のELISA法による測定を行っています。
研究によって新しい病原性が解明されるにつれて、治療方針の選択肢に幅が出てきました。
ちなみに、抗プロテインS抗体や抗第Ⅻ因子抗体の研究は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 (AMED) の研究費で、厚労省から新しい不育症の検査、治療を開発せよとの指令を受けて行いました。
結果が出せて、嬉しく思います。
良い子宮内膜ができづらい着床障害の人や、胎盤形成不全で不育症になる人の多くは、現時点では原因不明で困っています。
当院研究所の研究成果は、原因不明の着床障害・不育症のブレークスルーになるのでは無いかと期待しています。
まとめると、EGFを認識する自己抗体(抗PS/PT抗体と、当院でしか検査出来ない抗EGF抗体、抗第Ⅻ因子抗体、抗プロテインS抗体)は、生殖において重要な役割を担うEGF系の働きを破綻させ、着床障害・不育症を引き起こしている可能性があります。
他院で検査している第Ⅻ因子活性、プロテインS活性検査では分からない着床障害・不育症の新しい原因や治療法を発見し、検査方法を開発・普及する為、目下研究中です。