血液凝固系検査は、採血直後の処理をしないと無意味であるが、それを行なっている施設は殆どない【過去コラムより】
ホームページリニューアルに伴い、過去に掲載した信頼性の高い血液検査データに関するコラムをまとめました。
【目次】
- 血液凝固系検査は、採血直後の処理をしないと無意味であるが、それを行なっている施設は殆どない。
- NK細胞活性が異常低値の場合、検体の取り扱いが適切でない可能性が高い
血液凝固系検査は、採血直後の処理をしないと無意味であるが、それを行なっている施設は殆どない。
他院で受けた検査結果を持って当院を受診される患者さんが多くいますが、当院で再検査になる事が多いです。
何故ならば、血液凝固系検査がきちんと行われていない事が多いからです。
ループスアンチコアグラントやプロテインS活性など、血液凝固系検査は、採血した直後から血液が固まろうとするので、正確なデータを得るためには採血から検査に至るまで細心の注意が必要です。
特に、採血直後に遠心分離して血小板を除去し、血漿成分のみを急速冷凍してから検査に提出する事が不可欠です。
血液凝固系検査には国際学会で測定法の取り決めがあり、採血の仕方やその後の処理方法が厳しく決められています。その方法は、国際血栓止血学会誌に載っています。
にも関わらず、それをやっている施設は殆どありません。
殆どの施設は、採血した後、そのまま血液を置いておき、夜に検体を回収に来た検査会社のスタッフに渡すだけです。
その間に、血液中の血小板がループスアンチコアグラントを吸収し、陽性の人が陰性になってしまいます。
当院で次のような研究調査を行いました。
(拙著『不育症学級改訂3版』にもデータを紹介しています。)
当院の患者さんから承諾を得て、2本採血しました。
1本は当院のいつも通りの処理(採血直後に遠心分離し急速凍結)を行い、もう1本は普通の施設同様に夕方まで放置して検査会社に提出しました。
その結果、処理をしなかった場合は全ての人で、抗体価が低下していました。
特に問題なのは、ループスアンチコアグラント(dRVVT法)が1.2以上の陽性者が全て陰性になっていたことです。
当院で陽性に出た患者さんが他院で再検査して陰性になり、当院の診断を否定される事がありますが、当院の検査の信頼性を否定できる程、採血から遠心分離、急速凍結を厳格に行っている施設などまず無いと思います。
同様に、プロテインS活性も、正確に測定する事は難しいです。
正確に測るには、それなりの設備と熟練した検査技師が必須です。

ここまで、血液凝固系検査は採血後の処理をしないと無意味であると述べてきましたが、しなくても、比較的早めに検査会社に提出すればある程度マシなデータは得られます。
不妊、不育症専門クリニックの検査項目の多さを気にする人が多いですが、正確に検査出来ているかの方が重要です。
一般病院で当院の不育症検査項目をそのままそっくり検査しても信頼性の高い結果を得る事はできません。
血液凝固系検査を正確に行うには、血液凝固系学の高度な知識、熟練したスタッフ、迅速に検体を処理する適切な設備が必要不可欠です。
当院は、そのために不育症研究所を併設しているのです。
NK細胞活性が異常低値の場合、検体の取り扱いが適切でない可能性が高い
当院ではエビデンスレベルが低いため測定していませんが、NK細胞活性の検査で、10%未満の人は、採血した後に血液が長時間放置されていた可能性があります。
NK細胞活性の正常値は、18~40%です。
NK細胞活性の検査は、月から金曜日の曜日指定があり、土日は提出できません。
しかも、採血当日に提出する必要があります。
異常低値の人は、土日に採血していた人が多かったです。
平日に採血した人も、おそらく他の採血検体と一緒にそのまま検査会社に回収されるまで放置し、翌日以降に提出したと思われます。
これでは、NK細胞が死んでしまいますので、活性がゼロでもおかしくありません。
高額な検査なので、もしも土日に採血が行われた場合は、検査結果に信頼性はありませんので、無料で再検査をお願いした方が良いと思います。
採血検体の取り扱いに無頓着なことから、同じ日に提出した他の検査項目(特に凝固系検査)も、信用しない方が良さそうです。