ERA、EMMA、ALICE、CD138、Th1/Th2検査を受けるか、迷っている方へ【過去コラムより】
ホームページリニューアルに伴い、過去に掲載したERA、EMMA、ALICE、CD138、Th1/Th2検査に関するコラムをまとめました。
【目次】
- ERA、EMMA、ALICE、CD138、Th1/Th2検査を受けるか、迷っている方へ
- ERA検査と当院の着床障害検査の関係について思う事
- Th1/Th2検査、タクロリムスについて
ERA、EMMA、ALICE、CD138、Th1/Th2検査を受けるか、迷っている方へ
着床障害の方で、ERA(着床の窓の検査)、EMMA、ALICE(子宮内フローラ)、CD138(慢性子宮内膜炎の検査)、Th1/Th2検査(免疫のバランスの検査)を勧められ、値段も高価なので迷って当院に相談される方が増えています。
ERA検査は、着床の窓がズレていないのか見る検査ですが、何故ズレているのか、その原因はあまり解明されていません。
当院独自の検査は、ズレている原因を調べるので、当院の検査で陽性となれば、治療によってより根本的な解決を目指すことが可能です。
詳細は、次のセクション「2.ERA検査と当院の着床障害検査の関係について思う事」をご覧ください。
EMMA検査は、子宮内膜の細菌の種類と割合を調べる検査です。
ALICE検査は、慢性子宮内膜炎に関与すると言われている病原菌がいるのか、調べる検査です。
これらの検査で、もし細菌に異常があっても、それが実際に慢性子宮内膜炎を引き起こし、着床障害を引き起こしているのかまでは分かりません。
一方、子宮内膜のCD138検査は、慢性子宮内膜炎の起炎菌は分かりませんが、実際に内膜に炎症を起こしているのかが分かります。
従って、CD138陽性細胞があれば抗生剤で叩き、陽性細胞が消えたことを確認して移植すれば大丈夫です。
CD138検査は費用も約1万円ぐらいで、ERA、EMMA、ALICE検査よりも非常に安価で、実用的な検査です。
結局、ERA、EMMA、ALICE検査は、どれも着床障害の間接的な検査に過ぎません。
私の個人的な意見では、当院独自の血液検査で着床の窓がずれる原因を調べ、CD138で慢性子宮内膜炎の有無を調べると、着床障害は大体網羅できる印象です。
CD138検査は、不妊検査の範疇なので、当院では行っていません。
CD138検査の結果を持参して当院を受診すると効率的です。
ちなみに、着床障害の原因を内膜側では無く卵側にあると考え、着床前遺伝学的検査 (PGT-A)を行っている方も多いです。
PGT-Aは、検査する細胞を採取する過程で正常な卵にダメージを与えている可能性があります。
特に30代前半までの方では、むしろ正常な卵を検査のせいでダメにしている可能性があり、あまり良い結果が出ていない様です。
卵だけのせいにするより、上記の様な、子宮内膜側の検査をした方が良いかもしれません。
当院は、全国の不妊クリニックで治療中の患者さんで、中々結果が出ない方が大勢来院されます。
当院では不妊治療は行っていませんので、冷静に客観的な評価が出来ると思います。
同じ検査でも、不妊クリニックによって値段もやり方も異なることもあり、興味深く見ています。
困った時は、是非当院でご相談下さい。突っ込んだ相談が出来ると思います。
ERA検査と当院の着床障害検査の関係について思う事
当院で行っている着床障害検査に、抗第Ⅻ因子抗体と抗プロテインS抗体、抗EGF抗体検査があります。(どこのクリニックでもやっている第Ⅻ因子活性、プロテインS活性とは異なります。当院でしか出来ない検査です。)
この3つの自己抗体に加え、抗PS/PT抗体は、EGFという子宮内膜や胎盤の血管新生・細胞増殖を担っている成長因子を認識する事が分かっています。(以下、EGF関連抗体と呼びます。)
EGFの仲間に、HB-EGFというのがありますが、HB-EGFは子宮内膜と胚盤胞の表面にあり、着床に非常に重要な役割を果たしています。
EGF関連抗体は、そのHB-EGFに結合し、着床を邪魔する可能性があります。
動物実験によると、HB-EGF欠損マウスは、着床の窓が遅れる事が分かっています。
もしも、HB-EGFを認識する自己抗体が陽性であれば、同様の事が起きる可能性があります。
現に、当院を受診した着床障害患者さんで、EGF関連抗体陽性者は、ERA検査で着床の窓がずれている様です。
ERA検査は、着床の窓のズレが分かるかもしれませんが、ずれている原因は分かりません。
当院の検査でその原因が分かれば、治療する選択肢が増えます。ERA検査で着床の窓が1日ずれているから1日遅らせて移植するという対症療法ではなく、ずれている原因を見つけて根本原因に対する治療をしたほうが良いに決まっています。
着床が少し遅れると、妊娠中のトラブルが増えるというデータもありますし、そもそも、もしもズレの原因がHB-EGFに対する自己抗体であった場合、HB-EGF系の破綻は、妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育遅延などと関係すると報告されています。
幸いHB-EGF系の破綻は、抗凝固療法で改善できると報告されています。
もし着床の窓がずれている原因がHB-EGFを認識する自己抗体ならば、必要な治療を妊娠中通して行い、正常な妊娠、分娩に導く事ができます。
着床の窓がずれている原因を追求しなくても、ERA検査の結果通り移植の日をずらせば着床は出来るかもしれません。
しかし、着床さえできれば正常な妊娠、分娩が期待でき、全て解決するという訳では無いのかも知れません。
不妊治療の目的は、着床、妊娠する事ではなく、元気な赤ちゃんを産む事である事を忘れてはいけません。
Th1/Th2検査、タクロリムスについて
最近、Th1/Th2検査を行う施設が増えてきました。
末梢血のTh1/Th2検査は、子宮の局所免疫の状況を直接反映しないので、検査としては参考程度にしかなりません。
この検査のみで同種免疫異常と診断し、タクロリムスで治療するのは、あまりにも短絡的であると考えます。
「不育症管理に関する提言2025」(p.34,35,64)では、非推奨検査(不育症との関連が明らかでなく、不育症の検査として行う事が推奨されない検査)の中にTh1/Th2検査が入っています。
また、不育症治療としてのタクロリムスの使用は、有効性を示すエビデンスが無く、臨床研究法に従いながら倫理委員会の審査と承認を受け、患者同意を取得しなければならないとあります。
提言2025改訂委員会のメンバーには、生殖免疫学の世界的権威の研究者も複数おり、メンバー全員一致の意見です。
<Th1/Th2の正常値とタクロリムス投与治療時の流産率>
Th1/Th2の正常値が10.3以下に設定されていますが、この正常値は、mean+1SD(平均値+1標準偏差値)で計算されており、正常女性の約16%が引っかかる設定で、甘すぎます。
この正常値で診断すると、普通に出産している正常女性の6人に1人は、タクロリムスを飲まないといけなくなります。
また、この正常値で診断すると、着床障害の約半分もの人がTh1/Th2高値となり、タクロリムスを飲む事になると報告されています。
この中には当然、飲まなくても良い人が多く混ざっているはずなので、過剰診断、過剰治療であり、もし着床出来たとしてもそれが薬の効果かは不明です。
逆に、前医にて、Th1/Th2高値のためタクロリムスを飲みながら何度も胚移植を繰り返し、着床しないため当院を受診される方がいますが、当院で検査すると他の原因が見つかる事が多く、過剰診断の弊害が発生しています。
見当違いの診断、治療をしている間に、正しい診断、治療が滞っているのです。
現に、Th1が高値症例にタクロリムスを投与した時の流産率は35.7%と報告されていますが、この流産率は高すぎます。
Th1が高いという事は、恐らく制御性T細胞 (Treg)があまり働いていない状況です。
そうすると、免疫系が全体的に燃え盛っている状態なので、同種免疫異常だけでなく、自己抗体の陽性率も高くなるはずです。
だから、Th1/Th2高値でタクロリムス無効だった人が当院で検査をすると、色々な自己抗体が陽性になり、他のリスク因子が見つかる事が多いのは理論的に納得が行きます。
適切な治療をすれば、流産率は正常女性と同程度の20%ぐらいになるべきです。
<Th1、Th17優位の患者に低用量アスピリンが有効であると言う仮説>
他院でTh1/Th2高値を指摘され、タクロリムスを投与されたけれど結果が出ず、当院を受診する人も多いです。
当院で検査すると、血液凝固系の異常が見つかり、低用量アスピリンの方針になり、上手くいく人が多いです。
国際血栓止血学会のオフィシャルジャーナルのJTHに興味深い論文が出ました。
それによると、血小板が活性化すると、Th1とTh17が優位になり、制御性T細胞が抑制されるそうです。
ならば、それを是正するために、抗血小板薬の低用量アスピリンが効くはずです。
すごく納得が行く論文でしたので、紹介します。