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ビタミンD、銅、亜鉛と不妊、妊娠について【過去コラムより】

ホームページリニューアルに伴い、過去に掲載したコラムをまとめました。

【目次】

  1. ビタミンDと不妊、不育症について
  2. 銅、亜鉛と不妊、妊娠について

ビタミンDは、ほとんどが皮膚に紫外線が当たる事で合成されます。
食事で摂取されるのは、10-20%に過ぎません。
ビタミンDを含む食品は、非常に限られています。
ビタミンDは、脂溶性ビタミンなので、サバ、イワシ、サンマ、サケなどの、脂ののった魚に豊富に含まれています。
したがって、日本人はビタミンDの食生活には恵まれていると言えます。
ちなみに、アメリカ人は、ビタミンDのほとんどを強化食品から摂取しています。
アメリカでは、牛乳、朝食用シリアルなどにビタミンDが添加されています。
ビタミンD欠乏妊婦の頻度は、国、人種など報告によりまちまちで、10%~50%と言われています。
かなり高頻度である事は間違いありません。
ビタミンD欠乏が不妊と関係するかに関しては、賛否両論です。
賛成する論文も多いですが、否定する論文も多いです。

過去の論文のデータを合わせて解析した論文があるので紹介します。(Human Reproduction, Vol.33, No.1 pp. 65–80, 2018)。
それによると、ビタミンD欠乏と不妊の間に、統計学的な有意差がでましたが、ごくわずかでした。
この論文で論争に決着が付いた訳ではなさそうです。
具体的に説明すると、体外受精を行っている不妊患者の生児獲得率とビタミンD欠乏の関係を7つの論文で検討したところ、6つの論文は有意差が無く、1つの論文に強い有意差があり、全7つの論文のデータを合わせて統計をとると、ぎりぎり有意差がでました。

したがって、この論文では、ビタミンDが足りている患者は、欠乏患者よりも体外受精の生児獲得率が高いと結論づけていますが、1つの論文のデータに押し切られた感じで、何だか納得がいきません。
この強い有意差のある論文を除外すれば、差は出なかったと思います。
ビタミンD不足は不妊の原因であると結論づけたい著者の意図を感じます。
統計は、時に研究者のバイアスで結論が変わりますので、良く論文の内容を読み込み、判断するリテラシーが必要です。
ちなみに、この論文によると、ビタミンD欠乏と流産の関係は、明確に否定されています。
これに関しては、全ての論文が同じ結論でしたので、信用して良さそうです。
この論文には、日本人のデータはありません。
また、ビタミンD欠乏と不妊の関係を見ただけで、ビタミンD欠乏が不妊の原因かは、不明です。
それにも関わらず、ビタミンD欠乏は不妊治療の成功率が悪いかもしれない、ビタミンD欠乏が不妊の原因かもしれない、ビタミンDのサプリを摂れば妊娠できるかもしれないという、仮説のオンパレードに基づき、ビタミンD不足の人がビタミンDサプリを飲めば妊娠できると結論付けるのは、安易かもしれません。

当院でビタミンDの検査をしていないのは、検査をしてもどうせ何割もの人が引っかかり、ビタミンDサプリを飲むことになります。
ビタミンD検査もビタミンDサプリも高価ではありませんし、やって悪いことは無いので否定はしませんが、数ある不育症、着床障害検査の中でプライオリティーが高いとも思えず、当院では検査していません。
医療というよりは、生活習慣改善の問題だと思いますので、妊娠を目指す人はビタミンD、カルシウム、鉄分、葉酸などの摂取を心がけ、適度に日光に当たり、バランス良い食生活を目指してください。

ビタミンD不足が着床障害の原因かは微妙ですので、当院では検査に入れていませんが、ビタミンDは妊娠にも胎児にも大切なのは間違いありません。
当院は決してビタミンD不足を容認している訳ではないので、そこは誤解の無いよう。
当院は、不育症患者にω3の摂取を推奨していますが、サバ、イワシ、サンマを食べれば、ビタミンDも摂れるのであれば、一石二鳥です。
鯖缶、納豆、玉ねぎで完璧かもしれません。

不妊クリニックで銅、亜鉛を検査しているところが増えてきました。
そこで、どれだけエビデンスがあるのかを検証するために論文を集めてみました。
私は、医学部の客員教授でもあるので、医学図書館を自由に使えて便利です。
インパクトファクターの高いジャーナル順に、最近の4つの論文を紹介したいと思います。

Nutrients 2019, 11, 1609
オーストラリアの論文です。亜鉛が少ない女性は、妊娠するまでに時間がかかったとあります。
一方で、銅と不妊は無関係とあります。

Nutrients 2016, 8, 749
韓国の論文です。銅が多い女性は、妊娠高血圧腎症に成り難いとあります。
これは、銅が多い女性は妊娠高血圧に成り易いという銅悪玉説と相反するデータです。
著者が言うには、サウジアラビアとバングラデシュでは、この論文と同じく、妊娠高血圧腎症患者は銅が少ないそうです。
また、この論文では、銅の季節変動も報告しています。
銅は、秋冬に少なく、春夏に増えます。
韓国では、亜鉛を多く含む牡蠣を冬に良く食べるため、銅の吸収が抑えられるためでは無いかと解説しています。

Maternal and Child Nutrition (2014), 10, pp. 327–334
イギリスの論文です。
銅、亜鉛と、低出生体重児の関係を調査したところ、無関係だそうです。

Journal of Trace Elements in Medicine and Biology 46 (2018) 103–109
オーストラリアの論文です。
銅、亜鉛と、妊娠高血圧、妊娠糖尿病、早産、低出生体重児などの妊娠合併症との関係を調べています。
銅が少ない女性の方が、妊娠合併症に成り難いとあります。
銅も亜鉛も、両方少ない方が、両方多いよりも、妊娠合併症に成り難いとあります。
亜鉛も、多いよりは少ない方が良い様です。
と言う事は、銅を減らすために亜鉛を投与する事は、必ずしも正しくないかも知れません。

以上4つの論文では、銅も亜鉛も言っている事がまちまちで、地域差、季節変動も無視できなさそうです。
地域的にも人種的にも、食文化的にも、韓国のデータが、一番日本に近いのかもしれません。

コクランレビューの日本語サイトに亜鉛の記事を見つけたので紹介します。
コクランレビューは、医学論文のシステマティックレビューを行う国際的団体のコクランが作成している質の高いレビューとして定評のあるものです。
我々専門医からかなり信頼されています。

▼コクランレビューの亜鉛に関する記事
www.cochrane.org/ja/CD000230/PREG_ren-shen-toxin-sheng-er-noautokamugai-shan-notamenoya-qian-bu-chong

これによると、妊娠中に亜鉛を補給することで、女性と赤ちゃんの予後が良くなるという十分なエビデンスはないそうです。
特に低所得地域の場合は全ての栄養が足りていないので、亜鉛だけ狙って補充するよりは、全体的な栄養状態を改善する事が大切な様です。

何れにしても、不妊症の人が銅、亜鉛を測定する意義がどれほどあるのか、微妙ですね。
参考程度にして、あまり振り回されないようにした方が良さそうです。
探してみたら、日本の論文が1つありましたが、残念ながらインパクトファクターの付いていない、あまり引用されないジャーナルでしたので、今回は紹介していません。
インパクトファクター至上主義は良くありませんが、質の高い論文がインパクトファクターの低いジャーナルに出る事もありません。
この論文を参考に銅、亜鉛を検査しているクリニックがある様ですが、論文の信頼性を見極めるリテラシーが必要です。
結局、銅、亜鉛検査は、当院の不育症、着床障害検査として採用するには相応しくないというのが結論です。

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