OVERVIEW
妊娠は、受精卵が子宮内膜に着床し、発育していくことで成立します。
しかし、良好な受精卵を何度移植しても着床しない場合があり、この状態を「着床障害」と呼びます。
着床障害患者に不育症検査を行うと、不育症患者と同様の項目で陽性となることが
当院の研究で判明しました。
着床障害の治療と同時に、着床後の流産予防に対する治療も行う必要があります。
着床のしくみと着床障害とは
受精卵は子宮内膜に接着し、その後血流やホルモン環境に支えられて成長していきます。
この一連のプロセスのどこかに障害があると、着床が成立しなかったり、
ごく早期に停止してしまいます。
着床障害の原因は大きく胚(受精卵)の問題と母体側の問題に分けられます。
主な原因と概要
着床障害にはさまざまな要因が関係すると考えられています。
当院の着床障害診療のポイントは次の通りです。
慢性子宮内膜炎
慢性子宮内膜炎は着床を妨げたり、初期流産の原因になることがわかっています。
子宮鏡で肉眼的に発赤や炎症を見るだけでなく、CD138で炎症細胞を顕微的に見ることが望ましいです。
慢性子宮内膜炎は抗菌薬の投与で治療できます。
慢性子宮内膜炎の検査は、不妊症検査が可能な医療機関にご相談ください。
EGF系の破綻
着床の窓のズレ
HB-EGF(ヘパリン結合EGF)が欠損したマウスは、着床しなくなったり着床の窓が後にずれることが報告されています。
同様に、EGFを認識する自己抗体があると、EGFの働きである子宮内膜の血管新生を邪魔し、内膜が出来上がるのに時間がかかって着床の窓がずれたり、着床自体を妨げている可能性があります。
当院の取り組み
当院における着床障害の治療成績
当院では、胚移植を3回以上(3〜12回、平均3.9回)行っても着床に至らなかった着床障害患者110名を対象に検査と治療を実施しました。対象患者の平均年齢は38.9歳で、妊娠の判定は胎嚢の確認によって行っています。
その結果、43.6%(平均年齢38.3歳)の方は治療後1回目の移植で妊娠に至り、20.0%(平均年齢37.7歳)の方は2回目の移植で妊娠されました。
つまり、63.6%の方が2回目の移植までに妊娠を確認できたことになります。
一方で、一般的に38〜40歳の移植あたりの妊娠率は44.2%と報告されています。
比較すると、当院の成績は着床障害を有する方においてもこれと同等であり、非常に良好な結果といえます。
さらに、胚移植を6回以上行っても着床に至らなかった患者14名のうち、当院での検査と治療後には7名(50%)が1回目の移植で妊娠し、4名(28.6%)が2回目の移植で妊娠という成果が得られました。
当院独自の血液検査
杉ウイメンズクリニックでは、研究所を併設し、他院では実施できない独自の血液検査を行っています。
これらは不育症・着床障害の新しいリスク因子として研究が進められており、国内外の学会でも注目されています。
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抗第Ⅻ因子抗体検査
血液凝固因子のひとつである第Ⅻ因子に対する自己抗体を調べます。この抗体があると、胎盤に血栓ができやすくなることで流産を引き起こしたり、子宮内膜の状態が悪くなることで着床障害の原因となる可能性があります。
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抗プロテインS抗体検査
血液の凝固を制御する「プロテインS」に対する自己抗体を検出します。この抗体が存在すると血液が固まりやすくなり、胎盤の血栓を引き起こす可能性があります。
現在行っている当院の研究で、妊娠高血圧症候群や着床障害との関連が示唆されています。 -
抗EGF抗体検査
細胞の増殖や血管新生に関わるEGF(上皮成長因子)に対する自己抗体を検出します。子宮内膜や胎盤の血管新生を妨げ、着床しにくくなったり、胎盤形成不全の原因になると考えられています。
今までの当院の研究で、上記3つの自己抗体と抗PS/PT抗体が、いずれもEGFを認識することがわかりました。
これらのEGFを認識する「EGF関連抗体」があることで、子宮内膜や胎盤の血管新生に重要な役割を担っているEGF系の働きを阻害し、
胎盤形成不全や質の高い子宮内膜の形成を阻害していると考えられています。
不育症・着床障害学級
当院では、患者さんやご家族に向けて「不育症・着床障害学級」を定期的に開催しています。医師から直接説明を受けられる機会として、不育症や着床障害について正しく理解していただくことを目的としています。
開催日程はお知らせページでご確認ください。
- 初めての方も参加可能
- 夫婦での参加も歓迎
- 参加費無料
助産師相談
不育症や着床障害で悩む方、そのご家族の方々やご友人など、
どなたでも無料で利用できる相談室です。
- 完全予約制
- 相談無料
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曜日
水・金曜日
※月、木(午前)、土(午前)応相談 - 予約方法 電話またはGoogleフォーム
- 相談時間 1枠30分程度
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対象者
当院未受診/受診済み問わず誰でも
(本人・ご家族など)
※治療方針やセカンドオピニオンにあたる内容は不可