OVERVIEW
不育症は、妊娠は成立しても流産や死産を繰り返し、妊娠を継続することが難しい状態を指します。
流産自体は決して珍しいことではなく、誰にでも起こり得る自然な現象ですが、
繰り返す場合には医学的な検査・治療が必要となることがあります。
当院では、不育症や着床障害に関する検査・治療を専門に行い、原因を明らかにすることで、
妊娠の継続を支える医療を提供しています。
流産とは
流産は、妊娠の約15〜20%に起こるとされ、決して特別なことではありません。
特に女性の年齢が上がるにつれて流産の可能性は高まり、
- 35歳では約20%
- 40歳では約40%
- 42歳では約50%
と報告されています。
多くの流産は「受精卵の染色体異常」による自然淘汰が原因です。
受精卵の約40%に染色体の異常があるとされますが、その多くは着床前後のごく早い段階で淘汰されます。このような流産は病的なものではなく、止めることも予防することもできません。
不育症とは
2回以上の流産や子宮内胎児死亡が繰り返される場合には「不育症」が疑われます。
環境省による「子どもの健康と環境に関する全国調査」で、一般市民において
- 2回続けて流産する確率は4.96%
- 3回続けて流産する確率は1.13%
であることが判明しました。
特に3回以上流産を繰り返す場合は、「偶発的」で終わらせず、検査をすることをお勧めします。
また、妊娠中期以降の子宮内胎児死亡はまれであり、この場合は
回数に関わらず原因を調べることが望まれます。
主な原因と概要
不育症の原因はひとつではなく、複数の要因が関わることがあります。
代表的なものには以下が挙げられます。
抗リン脂質抗体陽性
不育症の原因のひとつに「抗リン脂質抗体症候群」があります。
これは、体内に抗リン脂質抗体という自己抗体がつくられ、胎盤に血栓ができやすくなり流産や死産を引き起こす病態です。
診断には血液検査が必要であり、治療には低用量アスピリン療法、ヘパリン療法などの抗凝固療法が用いられます。欧米でも広く行われており、有効性と安全性が報告されています。
血液凝固異常
血液凝固を制御する凝固因子が欠乏することで血液が固まりやすくなり、胎盤に血栓を形成します。
その結果、胎児に酸素と栄養が届きづらくなり流死産を引き起こします。
治療には低用量アスピリンやヘパリン療法などの抗凝固療法が用いられます。
内分泌異常
甲状腺ホルモンの数値に異常があると、妊娠しづらかったり、流産の原因になると言われています。
糖尿病は、流産の原因になったり、妊娠中に合併症を招くこともあります。
甲状腺や糖尿病専門の内科を受診していただき、薬物療法や食事療法でホルモン値や血糖値をコントロールした上で妊娠に臨みます。
子宮形態異常
子宮内腔の形の異常があると、着床しても妊娠継続しにくいことがあります。
中隔子宮は不育症患者に一番多い形態異常です。
子宮形態異常があっても必ず流産するわけではないので、治療せず妊娠にトライすることもあります。手術を行う場合、手術可能な病院を紹介します。
染色体異常
夫婦のどちらかに染色体異常があると、受精卵の染色体異常に繋がり流産しやすくなります。
遺伝子情報は治療できませんが、PGT-SRで卵を選別して戻すという方法もあります。
不育症と将来の健康
不育症のリスク因子となる抗リン脂質抗体や血液凝固異常は、妊娠だけでなく将来的に血栓症など健康リスクにもなり得ます。
他にも、糖尿病や高血圧など妊娠中のトラブルで隠れた疾患が発見されることも珍しくありません。
不育症の検査は「妊娠の継続を守る」だけでなく、「将来の健康管理」にも繋がります。
当院の取り組み
当院独自の血液検査
杉ウイメンズクリニックでは、研究所を併設し、他院では実施できない独自の血液検査を行っています。
これらは不育症・着床障害の新しいリスク因子として研究が進められており、国内外の学会でも注目されています。
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抗第Ⅻ因子抗体検査
血液凝固因子のひとつである第Ⅻ因子に対する自己抗体を調べます。この抗体があると、胎盤に血栓ができやすくなることで流産を引き起こしたり、子宮内膜の状態が悪くなることで着床障害の原因となる可能性があります。
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抗プロテインS抗体検査
血液の凝固を制御する「プロテインS」に対する自己抗体を検出します。この抗体が存在すると血液が固まりやすくなり、胎盤の血栓を引き起こす可能性があります。
現在行っている当院の研究で、妊娠高血圧症候群や着床障害との関連が示唆されています。 -
抗EGF抗体検査
細胞の増殖や血管新生に関わるEGF(上皮成長因子)に対する自己抗体を検出します。子宮内膜や胎盤の血管新生を妨げ、着床しにくくなったり、胎盤形成不全の原因になると考えられています。
今までの当院の研究で、上記3つの自己抗体と抗PS/PT抗体が、いずれもEGFを認識することがわかりました。
これらのEGFを認識する「EGF関連抗体」があることで、子宮内膜や胎盤の血管新生に重要な役割を担っているEGF系の働きを阻害し、
胎盤形成不全を引き起こしたり、質の高い子宮内膜の形成を阻害していると考えられています。
不育症・着床障害学級
当院では、患者さんやご家族に向けて「不育症・着床障害学級」を定期的に開催しています。医師から直接説明を受けられる機会として、不育症や着床障害について正しく理解していただくことを目的としています。
開催日程はお知らせページでご確認ください。
- 初めての方も参加可能
- 夫婦での参加も歓迎
- 参加費無料
助産師相談
不育症や着床障害で悩む方、そのご家族の方々やご友人など、
どなたでも無料で利用できる相談室です。
- 完全予約制
- 相談無料
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曜日
水・金曜日
※月、木(午前)、土(午前)応相談 - 予約方法 電話またはGoogleフォーム
- 相談時間 1枠30分程度
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対象者
当院未受診/受診済み問わず誰でも
(本人・ご家族など)
※治療方針やセカンドオピニオンにあたる内容は不可