杉ウイメンズクリニック

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不育症、習慣流産、反復流産 杉ウイメンズクリニック | 院長コラム

抗PE抗体の正常値と病原性について。

2017/05/28

キニノーゲンを認識する抗PE抗体は、1995年に私が世界で初めて発見した抗体です。当時、アメリカ、インディアナポリスのメソジスト生殖移植免疫センターという研究所で主任研究員をしていた私が、恩師のマッキンタイヤー博士の指導のもと発見し、Blood誌という血液学の最高峰の国際医学雑誌に論文を掲載する事ができました。その功績で、翌年、アメリカのニューオリンズで開催された第7回国際抗リン脂質抗体学会で学会賞を受賞しました。次いで、抗PE抗体の測定法を開発した後、帰国し、日本の不育症外来でその重要性を確認して国際生殖医学誌に論文を掲載し、検査会社にその測定法を無償で教え、現在日本中の不妊、不育外来で検査されています。多くの専門医が気軽に測定出来るよう、特許は取りませんでした。その時、検査会社と協力して、約200人の正常女性の抗PE抗体を測定して正常値を計算しました。

正常値は下記のとおりです。

PE抗体 IgG キニノーゲン(+ 0.3未満

PE抗体 IgG キニノーゲン(−) 0.3未満

PE抗体 IgM キニノーゲン(+ 0.45未満

PE抗体 IgM キニノーゲン(−) 0.75未満

 

この数値は、私と検査会社が苦労して厳密に計算したものですし、検査法自体、詳細は私しか知らないので、私以外の人が正常値を変える事は不可能です。上記以外の正常値は存在しませんので、ご注意ください。どんなに正確に抗体の測定をしても、正常値が間違っていたら、陽性か陰性の診断は全く意味が無くなります。ゴールポストを動かしてはいけません。

 

PE抗体の病原性ですが、実はキニノーゲン(+)のみが病原性が確認されています。従って、キニノーゲン(−)がいくら高値でも、治療は不要です。もし、病原性があったとしても、キニノーゲンが関与しないので、血液凝固系は関与しないはずですので、アスピリンやヘパリンの投与は無意味です。また、私の基礎的な実験では、抗PE抗体のキニノーゲン(+)が陽性でも、病原性のある抗体は約6割です。従って、抗PE抗体が陽性に出たからといって、それが直ちに過去の流産や着床障害の原因と決めつけ、治療するのは早計かもしれません。抗PE抗体は、主に血小板を刺激して流産を起こすので、多くは抗血小板療法である低用量アスピリン療法で十分効きます。稀に、ヘパリン療法が必要な場合もありますが、その場合は、他の第XII因子抗体やループスアンチコアグラント (aPTTなど、当院独自に行っている検査を併用して判断します。

 

私が発見した抗体が全国で測定され、患者さんの役に立っている事は非常に誇らしく思いますが、私の息子(いや、娘?、今年で22才)の様な抗体なので、不適切に扱われるのを見ると非常に残念です。抗PE抗体の研究論文は沢山書きましたので、抗PE抗体を診断、治療に利用している専門医は熟読の上、正しく診療に生かして頂きたいと思います。

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