杉ウイメンズクリニック

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ビタミンDと不妊、不育症について。
2019/07/15(月)

ビタミンDは、ほとんどが皮膚に紫外線が当たる事で合成されます。食事で摂取されるのは、10-20%に過ぎません。ビタミンDを含む食品は、非常に限られています。ビタミンDは、脂溶性ビタミンなので、サバ、イワシ、サンマ、サケなどの、油ののった魚に豊富に含まれています。したがって、日本人はビタミンDの食生活には、恵まれていると言えます。ちなみに、アメリカ人は、ビタミンDのほとんどを強化食品から摂取しています。アメリカでは、牛乳、朝食用シリアルなどにビタミンDが添加されています。

ビタミンD欠乏妊婦の頻度は、国、人種など報告によりまちまちで、10%50%と言われています。かなり高頻度である事は間違いありません。

ビタミンD欠乏が不妊と関係するかに関しては、賛否両論です。賛成する論文も多いですが、否定する論文も多いです。最近、過去の論文のデータを合わせて解析した論文がでました(Human Reproduction, Vol.33, No.1 pp. 65–80, 2018)。それによると、ビタミンD欠乏と不妊の間に、統計学的な有意差がでましたが、ごくわずかでした。この論文で、論争に決着が付いた訳ではなさそうです。具体的に説明すると、体外受精を行っている不妊患者の生児獲得率とビタミンD欠乏の関係を7つの論文で検討したところ、6つの論文は有意差が無く、1つの論文に強い有意差があり、全7つの論文のデータを合わせて統計をとると、ぎりぎり有意差がでました。したがって、この論文では、ビタミンDが足りている患者は、欠乏患者よりも体外受精の生児獲得率が高いと結論づけていますが、1つの論文のデータに押し切られた感じで、何だか納得がいきません。この強い有意差のある論文を除外すれば、差は出なかったと思います。ビタミンD不足は不妊の原因であると結論づけたい著者の意図を感じます。統計は、時に研究者のバイアスで結論が変わりますので、良く論文の内容を読み込み、判断するリテラシーが必要です。ちなみに、この論文によると、ビタミンD欠乏と流産の関係は、明確に否定されています。これに関しては、全ての論文が同じ結論でしたので、信用して良さそうです。

この論文には、日本人のデータはありません。また、ビタミンD欠乏と不妊の関係を見ただけで、ビタミンD欠乏が不妊の原因かは、不明です。それにも関わらず、ビタミンD欠乏は不妊治療の成功率が悪いかもしれない、ビタミンD欠乏が不妊の原因かもしれない、原因なのであれば、ビタミンDのサプリを摂れば、妊娠できるかもしれないという、仮説のオンパレードに基づき、ビタミンD不足の人がビタミンDサプリを飲めば妊娠できると結論付けるのは、安易かもしれません。

当院でビタミンDの検査をしていないのは、検査をしても、どうせ何割もの人が引っかかり、ビタミンDサプリを飲むことになります。ビタミンD検査もビタミンDサプリも、高価ではありませんし、やって悪いことは無いので、否定はしませんが、数ある不育症、着床障害検査の中で、プライオリティーが高いとも思えず、当院では検査していません。医療というよりは、生活習慣改善の問題だと思いますので、妊娠を目指す人は、ビタミンD、カルシウム、鉄分、葉酸などの摂取を心がけ、適度に日光に当たり、バランス良い食生活を目指してください。

ビタミンD不足が着床障害の原因かは微妙ですので、当院では検査に入れていませんが、ビタミンDは妊娠にも胎児にも大切なのは間違いありません。当院は決してビタミンD不足を容認している訳ではないので、そこは誤解の無いよう。

当院は、不育症患者にω3の摂取を推奨していますが、サバ、イワシ、サンマを食べれば、ビタミンDも摂れるのであれば、一石二鳥です。鯖缶、納豆、玉ねぎで完璧かもしれません。

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