杉ウイメンズクリニック

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銅、亜鉛と不妊、妊娠について。
2019/08/12(月)

最近、不妊クリニックで銅、亜鉛を検査しているところが増えました。どれだけエビデンスがあるのかを検証するために、論文を集めてみました。私は、医学部の客員教授でもあるので、医学図書館を自由に使えるので、便利です。インパクトファクターの高いジャーナル順に、最近の4つの論文を紹介したいと思います。

 

Nutrients 2019, 11, 1609

オーストラリアの論文です。亜鉛が少ない女性は、妊娠するまでに時間がかかったとあります。一方で、銅と不妊は無関係とあります。

 

Nutrients 2016, 8, 749

韓国の論文です。銅が多い女性は、妊娠高血圧腎症に成り難いとあります。これは、最近の、銅が多い女性は、妊娠高血圧に成り易いという銅悪玉説と相反するデータです。著者が言うには、サウジアラビアとバングラデシュでは、この論文と同じく、妊娠高血圧腎症患者は、銅が少ないそうです。また、この論文では、銅の季節変動も報告しています。銅は、秋冬に少なく、春夏に増えます。韓国では、亜鉛を多く含む牡蠣を冬に良く食べるため、銅の吸収が抑えられるためでは無いかと解説しています。

 

Maternal and Child Nutrition (2014), 10, pp. 327–334

イギリスの論文です。銅、亜鉛と、低出生体重児の関係を調査したところ、無関係だそうです。

 

Journal of Trace Elements in Medicine and Biology 46 (2018) 103–109

オーストラリアの論文です。銅、亜鉛と、妊娠高血圧、妊娠糖尿病、早産、低出生体重児などの妊娠合併症との関係を調べています。銅が少ない女性の方が、妊娠合併症に成り難いとあります。銅も亜鉛も、両方少ない方が、両方多いよりも、妊娠合併症に成り難いとあります。亜鉛も、多いよりは少ない方が良い様です。と言う事は、銅を減らすために亜鉛を投与する事は、必ずしも正しくないかも知れません。

 

以上、論文により、銅も亜鉛も、言っている事がまちまちで、地域差、季節変動も無視できなさそうです。地域的にも人種的にも、食文化的にも、韓国のデータが、一番日本に近いのかもしれません。何れにしても、不妊症の人が銅、亜鉛を測定する意義がどれほどあるのか、微妙ですね。参考程度にして、あまり振り回されないようにした方が良さそうです。探してみたら、日本の論文が1つありましたが、残念ながらインパクトファクターの付いていない、あまり引用されないジャーナルでしたので、今回は紹介していません。インパクトファクター至上主義は良くありませんが、質の高い論文がインパクトファクターの低いジャーナルに出る事もありません。この論文を参考に銅、亜鉛を検査しているクリニックがある様ですが、論文の信頼性を見極めるリテラシーが必要です。結局、銅、亜鉛検査は、当院の不育症、着床障害検査として採用するには、相応しくないというのが結論です。



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