杉ウイメンズクリニック

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ERA検査と当院の着床障害検査の関係について思う事
2019/10/22(火)

 最近、着床障害の患者さんにERA検査が行われる事があります。着床の窓がずれているために着床しないのかを見る検査です。ERA検査の意義はまだ不明ですが、もしERA検査で窓がずれている事が分かったとしても、ずれている原因は分かりません。

 当院で行っている着床障害検査に、抗第XII因子抗体と抗プロテインS抗体があります。(どこのクリニックでもやっている第XII因子活性、プロテインS活性とは異なります。当院でしか出来ない検査です。)どちらの自己抗体も、EGFという成長因子を認識する事が分かっています。EGFの仲間に、HB-EGFというのがありますが、HB-EGFは、子宮内膜と胚盤胞の表面にあり、着床に非常に重要な役割を果たしています。抗第XII因子抗体や抗プロテインS抗体は、そのHB-EGFに結合し、着床を邪魔する可能性があります。

 動物実験によると、HB-EGF欠損マウスは、着床の窓が遅れる事が分かっています。もしも、HB-EGFを認識する自己抗体があれば、同様の事が起きる可能性があります。現に、当院を受診した着床障害患者さんで、抗第XII因子抗体や抗プロテインS抗体陽性者は、ERA検査で着床の窓がずれている様です。

 ERA検査は、着床の窓のズレが分かるかもしれませんが、ずれている原因は分かりません。当院の検査で、その原因が分かる事を期待しています。原因が分かれば、治療する選択肢が増えます。ERA検査で着床の窓が1日ずれているから1日遅らせて移植するより、ずれている原因を見つけて治療し、ズレを補正したほうが良いに決まっています。

 着床が少し遅れると、妊娠中のトラブルが増えるというデータもありますし、そもそも、もしもズレの原因がHB-EGFに対する自己抗体であった場合、HB-EGF系の破綻は、妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育遅延などと関係すると報告されています。幸いHB-EGF系の破綻は、抗凝固療法で改善できると報告されています。もし着床の窓がずれている原因がHB-EGFを認識する自己抗体ならば、必要な治療を妊娠中通して行い、正常な妊娠、分娩に導く事ができます。

 ERA検査の結果で、着床の窓がずれているからと言って、ずれている原因を追求せず、移植の日をずらせば、着床は出来るかもしれませんが、正常な妊娠、分娩が期待でき、全て解決する訳では無いのかも知れません。不妊治療の目的は、着床、妊娠する事ではなく、元気な赤ちゃんを産む事である事を忘れてはいけません。

 当院研究所は、抗第XII因子抗体や抗プロテインS抗体の基礎実験のデータを論文にし、昨年と今年、発表しました。まだ、臨床のエビデンスが足りませんので、現在、さらなる研究に着手しています。

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