杉ウイメンズクリニック

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「胚移植からのヘパリン投与は着床障害に効くどころか着床を邪魔する可能性がある」に対する反論に対する反論
2020/03/22(日)

以前 (2017.8.6.)、紹介したように、欧米では既に着床障害の治療としてのヘパリンの使用は、エビデンスに基づいて否定されているにも関わらず、何故今でもそれを行っているクリニックが僅かながら存在するのか、不思議に思っていました。最近、複数の患者さんから聞いたところ、次の様な説明を受けている様です。

「低分子ヘパリンを使用している欧米と、未分画ヘパリンを使用している日本では、ヘパリンの種類が違うので、比較出来ないし、今まで着床しなかった人が、ヘパリンの使用で妊娠している」

私が以前、HP (www.sugi-wc.jp/news_disp.cgiで引用した論文は、2つあります。一つは、「不育症学級改訂3版」135ページで紹介した論文(Fertil Steril 2003;80:376–83)、もう一つは、

アメリカ生殖医学会が2015年に、着床障害患者にヘパリンを使用する事を否定した論文(Fertil Steril 2015;103:33–4)です。後者は、低分子ヘパリンを使用していますが、前者は、日本と同じ未分画ヘパリンを使用しています。従って、ヘパリンは、低分子であろうが、未分画であろうが、着床障害には効きません。そもそも、「欧米と日本ではヘパリンの種類が違うから比較できない」という意見から「低分子は効かないが、未分画ヘパリンなら効くに違い無い」という理論の飛躍も理解できません。

以前、HPでも紹介した様に、胚盤胞上にはL-selectinという癒着し易い蛋白があり、それが子宮内膜にくっ付いて着床が始まります。ヘパリンは、L-selectinの発現を抑えたり、L-selectinに結合し、着床の邪魔をする事が知られています。分子量の大きなヘパリンの方がより効率的に邪魔をするというデータがあるので、日本で使っている未分画ヘパリンは、海外で使われている低分子ヘパリンよりもより着床を邪魔する可能性があります。

論文(Fertil Steril 2003;80:376–83)には、「不育症学級改訂3版」135ページでも解説しましたが、もう一つ興味深いデータがあります。それは、無策で移植を続けた人よりも、ヘパリンでも偽の食塩水でも、注射した方が、はるかに妊娠率が高かったそうです。これをプラシーボ効果と言います。従って、今まで着床しなかった人が、ヘパリンの使用で妊娠しているという印象は、ヘパリンの効果では無く、メンタルの問題である事が、タブルブラインド法の研究で解明されたと言えます。さらに、論文によるとヘパリン注射よりも偽薬の生理的食塩水の注射の方が、妊娠率が若干高かったので、ヘパリンはむしろ着床の邪魔になっているのかもしれません。

 

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