杉ウイメンズクリニック

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当院の着床障害の概念
2022/09/25(日)
着床障害とか着床不全と言う言葉は、良く使われますが、概念はまだ定まっていません。私は、“不全”と言う言葉が意味不明なので、着床障害と言っています。心不全は、英語でheart failureです。failureを日本語に訳すと不全と言うので、英語でimplantation failureを直訳すると、着床不全となるのですが、“不全”ってよく分からない日本語なので、私は着床障害の方がしっくり来ます。
妊娠反応が陽性で、超音波で胎嚢が確認できず、生理になる場合、化学流産と言われています。本当は、生化学的妊娠と言うのが正確です。日本では、化学流産は流産にカウントしません。何故ならば、化学流産の多くは受精卵の異常であり、不育症では無いからです。現に、日本のデータでは、PGT-Aの正常卵を移植すると化学流産はかなり減る事が分かっています。最近、欧州生殖医学会のガイドラインで、化学流産も流産にカウントする事になりましたが、私の印象では、欧米は日本ほど緻密にhCGを調べないので、欧米の化学流産は、日本の化学流産と違って流産に近いのではないかと思います。日本人は、妊娠反応をフライングテストする人が多い国民性で、不妊クリニックも直ぐにhCGを測定するので、hCG一桁の微妙な化学流産が多く、それは殆ど卵の異常なので、現時点では日本で化学流産を流産にカウントするのは不適切と思います。決して、化学流産を流産にカウントする欧州の方が日本より進んでいる訳ではありません。しかし、化学流産を反復する場合は、そうではありません。「不育症管理に関する提言2021」でも、反復生化学的妊娠は、不育症に準じた検査を行う事を提案しています。
体外受精で、何度も良好胚を移植しても着床しない場合、反復着床不全と言います。何回移植したとか、何個移植したかなど、まだ厳密な定義はありません。また、着床の定義もあやふやです。hCGが出たら着床したと定義する論文もありますが、一桁でも良いのか、二桁以上なのか、論文によりまちまちです。論文によっては、胎嚢が見えたら着床に成功と定義していたり、心拍が見えたら着床に成功としていたり、色々です。クリニックによっても、移植の1週間後に血中hCGを測定するところもあれば、尿検査の妊娠反応しかしないところもあり、着床したかしないかの判断が、全く異なります。従って、反復着床不全には、反復生化学的妊娠もかなり含まれるはずですが、その境界は不鮮明です。
私の個人的な考えでは、反復生化学的妊娠と反復着床不全を、まとめて着床障害と呼んでいます。両者は、分ける事が出来ないからです。当院は、着床障害の検査として不育症に準じた検査を行いますが、不育症と同じリスク因子が見つかった場合、不育症とは病態が異なるので、不育症と同じ治療は行っていません。不育症の治療は、胎盤血流を良くする事が目的の事が多いですが、着床障害の治療は、良い子宮内膜を育てる事が目的の事が多いので、治療の時期や薬剤が異なります。着床障害の人に不育症の治療を真似て、移植の日から、アスピリン、ヘパリンなどで介入しても効果が出ないのは、当然です。移植の日は、既に駄目な内膜が出来上がってしまっているからです。
私の考えでは、着床障害は、当院の精密検査、慢性子宮内膜炎検査(特にCD138検査)を行い、対策した上で、正常な卵を移植すれば、何とかなると思います。
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