杉ウイメンズクリニック

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不育症、習慣流産、反復流産 杉ウイメンズクリニック | 院長コラム

着床障害に対するイントラリピッド療法についての解説

2012/07/14

最近、イントラリピッドに関する問い合わせがあるので、ここに解説します。イントラリピッドは、ダイズ油が主成分の点滴用製剤で、私も昔、癌患者を診ていた頃に良く栄養補給として使用しました。2011年の不妊の国際学会で、反復着床障害患者に使用したところ、成績が良好であったという発表があり、その事を2011年にイギリスのBBCが放送し(Fertility Experts Claim Miscarriage Breakthrough. BBC Online 05/01/2011.)、イギリスの患者のwebsiteで火がついた様です。しかしながら、この発表は、わずか50人の患者の報告であり、無作為試験でもないので、研究方法としては信頼性の高いものではありません。さらに、イントラリピッドの作用機序も、明らかではありません。Th1/Th2バランスを是正すると言うのが研究者の説ですが、否定する意見もあります。また、イントラリピッドと普通のブドウ糖点滴を比較しても、免疫状態に差が無かったと言う論文もあります。
 BBCは、実は、2005年に「ダイズを避ければ妊娠出来るかも知れない」(Avoiding Soya ‘May Aid Fertility’. BBC Online 21/06/2005. )という、全く相反する放送を行っており、何かいい加減です。私は、NHKの取材を良く受けますが、NHKはもう少し、過去の報道を気にしていると感じます。
私は、良く患者さんに納豆をお勧めしていますが、日本人は、納豆と豆腐に醤油をかけて食べ、味噌汁も飲むので、そう言う意味では大豆づけで、もしダイズ油が妊娠に有効なのであれば、日本人は妊娠には完璧な食生活です。日本人にイントラリピッドって、意味あるのでしょうかというのが、私の素朴な疑問です。
 結局、今回のイントラリピッド療法は、主導する研究者の期待する効果は昔の夫リンパ球免疫療法と同じです。そして、昔の夫リンパ球免疫療法と深く関わったアメリカ、カナダの研究者が、今回も深く関わっています。私は、その人達とは昔からの知り合いで、中には、私がアメリカで抗PE抗体の研究をしていた時に、隣の席で試験管を振っていた友人もいます。夫リンパ球免疫療法は、私の不育症学級でも詳しく触れていますが、話題が先行して世界に広まり、その後、世界中できちんとした無作為試験を行ったところ、その有用性が否定されてしまいました。今回も、同じ過ちを繰り返そうとしているのでしょうか。1980年代に夫リンパ球免疫療法が流行した時を知る私としては、歴史が繰り返している様に見えます。夫リンパ球免疫療法も、抗リン脂質抗体が誘導されるなどの副作用がありましたが、イントラリピッドも血液凝固系亢進や血栓症などの副作用があります。当院の不育症患者さんの原因で一番多いのは、血液凝固系亢進ですので、BBCの放送の言う様に、決して “innovative and risk-free treatment regime” では無いかも知れません。
  蛇足になりますが、過去20年の世界中の医学論文を検索すると、不育症に対する「免疫療法」としては、夫リンパ球免疫療法、免疫グロブリン療法、イントラリピッドに関しては、論文が見つかりましたが、ピシバニールに関しては皆無である事を申し添えておきます。
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