杉ウイメンズクリニック

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不育症、習慣流産、反復流産 杉ウイメンズクリニック | 院長コラム

学会報告と、にべもない医者の話

2010/09/04

先週の土、日に外来をお休みして大阪で開かれた生殖免疫の国際シンポジウムに参加し、当院の研究データを発表してきました。プログラムのリンクを貼ります。
kumikae01.gen-info.osaka-u.ac.jp/ISIR/Program.htm
この学会は、日本中の不育症専門医が年に一度集結する学会でもあります。関東、名古屋、大阪の先生方と意見交換(ほとんど飲み会)を楽しみました。
その中で印象深かったのは、学会で唯一、人情派?でしられる某先生が、「異常のない不育症患者に異常なしと診断するのは大学病院の医者の悪い所である。君も大学を辞めて開業したのだから、そういう事は慎み、何でも良いから治療をしてあげなさい」と私に助言してくれた事でした。しかし、私はにべもない科学者です。患者に嘘をつく事は出来ません。以前、癌の終末期医療に携わっていたとき、嘘が嘘を呼んで主治医、家族と患者の信頼関係が無くなり、疑心暗鬼で亡くなっていった人を大勢診てきましたから。癌の告知をすると、最初は精神的に大変ですが、最期は信頼の中で安らかに過ごす事が出来るようです。そもそも、私はだますのが下手で、患者から先生は嘘がつけない人ですねと馬鹿にされていましたし。
内田 樹先生が、9月1日のブログで面白い事を書いています。以下に一部を引用します。
blog.tatsuru.com/
「医学者、とくにフロントラインにいる臨床医には「イラチ」が多い。
つねに待ったなしの現場で診断し、治療をし、またサイエンスの最新情報を絶えずモニターているわけであるから、勢い「イラチ」化することは止めがたいのである。
あと、「にべもない」人も多いですね。
判定の言葉を濁らせたり、相手のプライドを斟酌したり、「よいしょ」してサバいたりという、私など文系人間が得意とする「にべ」(ってなんだろう)的なものは、「待ったなし」の現場ではあまり(ほとんど)配慮されない。」

この意見は、目からウロコでした。そうか、文科系の人はそう思っているんだ。でも、最終的に人を救うのは、真実です。やはり、嘘はいけません。たとえ、それを言っちゃあという事でも、真実は真実です。善意から出た嘘は、白い嘘で、許されると言う意見もありますが、科学者には真実が命です。善意の嘘のために、本当に異常が無いという真実も信頼性を失います。多くの人は、異常が無いのに疑心暗鬼になり、心の安定を保つ事ができません。そういう人に、あなたは不育症ではありません、心配しないで、次は大丈夫と言ってあげたいのです。信じてもらえない場合は、私の至誠の気持ちが至らなかったからです。人間は小さな存在です。科学者として真実の厳しさを知れば知るほど、私は仏教哲学にはまっていきます。究極の文系人間の釈迦が最終的にたどり着いたのは、真実を受け入れる事であると思います。それが悟りであり、そしてあの壮大な仏教観が産まれたのだと思います。とは言え、本当の宗教人にはなれず、頭だけで宗教哲学を理解しようとする宗哲マニアでしかないのが、科学者の性でもあります。

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